弓を引いた翌日、体が思わぬ場所で筋肉痛になっていた経験はありませんか。初心者の方はもちろん、久しぶりに稽古を再開した中級者でも同じ経験をします。私自身も28年の稽古の中で、体の各部位が正しく使えるようになるたびに「今まで使っていなかった筋肉に出会う」瞬間を繰り返してきました。
弓道の筋肉痛がどこに出るかは、射の技術の状態を客観的に教えてくれるバロメーターでもあります。本記事では弓道で使う筋肉の正しい使い方と、筋肉痛の部位から読み取れる射の課題を解説します。
1. まず意識すべき2つのポイント
弓を引くときに筋肉の動きを意識したことはありますか。筋肉の動きを意識し、イメージしながら動作を行った方が、イメージをせずにただ弓を引いた場合よりも格段に上達が早くなります。
弓道で筋肉痛になる人は「手首が痛くなる人」と「背中が痛くなる人」の2パターンが多いようです。それぞれに明確な原因があります。
手首が痛い場合:腕で引いている証拠
手首を使って弓を押しながら矢を引いているから手首が痛くなって当然だと思う人もいます。しかし実際は、手首は弓の力を受け流す部位であって、積極的に力を出す場所ではありません。手首に過度の負担がかかっているのは、肩甲骨や肘の使い方が不十分で、手首で代償しているサインです。
なぜ背中が痛くなるのか疑問を持たれる方もいます。実は上手な人ほど背中の筋肉を使っているのです。そもそも筋肉痛とは普段使い慣れない筋肉を使うことで痛みが出てきます。今まで何ともなかったのに急に手首や背中が痛くなったという人はやはり原因があります。
背中が痛い場合:肩甲骨が正しく使えてきた証拠
背中の筋肉痛は、実は「正しい引き方ができてきた証拠」である場合があります。弓道の引き分けは、腕の力ではなく肩甲骨を背中の中央に寄せる力で行うのが本来の形です。この筋肉を初めて使い始めると、背中に筋肉痛が出ます。
以前、「手首は肩までではなく肩甲骨を含むのだ」と言われたことがあります。肩甲骨を開いて会へと持ち込むのです。もし手首だけで引き分けている人がいるならこの記事を読んだ瞬間から気をつけていただきたい点です。
2. 弓道で具体的なイメージを持つ
引き分けには「引き分け」があります。その引き分けのときに使う筋肉がとても重要です。引き分けの途中大三で一旦動作を止め一呼吸置きますが、このときにきちんと肩を落としていますか。
肩が上がっている状態というのは、精神的には緊張状態であり、筋肉も収縮してしまいます。肩を意図的に落とすことで、体に「自分は緊張状態ではない」ということを教える意味もあります。落ち着き、リラックスした状態でないと、スムーズに引き分けることができません。
スムーズな引き分けとは雄のクジャクが大きな羽を広げるようなイメージです。精神面が射の上達に直接影響する弓道では、イメージはできるだけ具体的にするのが大切です。前から見て、左の弓の押し手や右の矢の引き手のいずれかが先行することのないように均等に引き分けます。その際手首だけで引き分けてはいけません。
肩甲骨を開いて会へ持ち込むイメージ
以前「手首は肩までではなく肩甲骨を含むのだ」と指導を受けたことがあります。肩甲骨を開いて会へと持ち込むのです。肩甲骨を意識して、背中の筋肉を使っているイメージを持ちながら引いてみてください。
- 大三で一呼吸おき、肩を意識的に落とす
- 肩甲骨同士が近づいていく感覚を意識する
- 左右の引き分けが均等になるようにする
3. 肩甲骨を開くと筋肉痛になることもある
手首ではなく肩甲骨を意識し、背中の筋肉を使いながら引いてみてください。引き分けの際、自分の背中で肩甲骨同士がくっついている、もしくはどんどん近づいていると言うイメージをできるだけ常に心がけてください。
背中の筋肉痛はきちんと肩甲骨が使えている証拠です。痛みをむしろ誇りにおもっても良いでしょう。きちんとした射ができていれば昇段試験でも役立ちますし、何より会の際ののびあいの幅が広がります。弓が最大限に使われるので、威力も増します。
ここで一点注意してもらいたいのが、胸を突き出さないことです。背中にばかり気をとられないようにして胸は張る程度に抑えましょう。射は、1回実践しただけでは変わりませんから、日ごろから背中や肩甲骨を意識して、美しい羽が広がるようにしてください。
4. 弓道の引き分けで使う主な筋肉と部位
弓道で動員される筋肉は、一般のスポーツとはやや異なる分布をしています。正しい射ができているかどうかは、どの筋肉が使われているかで確認できます。
押し手(左手・左腕)側で使う筋肉
- 前鋸筋(ぜんきょきん):脇の下から肋骨にかけての筋肉。弓を的方向に押し込む際に使う
- 三角筋前部:肩の前面。打起しから大三への移行時に働く
- 上腕三頭筋:上腕の後面。弓を押す方向に肘を伸ばす際に使う
引き手(右手・右腕)側で使う筋肉
- 菱形筋(りょうけいきん):左右の肩甲骨の間。引き分けの核となる筋肉
- 僧帽筋中部・下部:肩甲骨を内側・下方向に引く。正しい引き分けで最も使われる
- 広背筋:背中の広い筋肉。会での伸び合いを支える
体幹・下半身で使う筋肉
- 腹横筋:体幹の安定を支える筋肉。足踏みから胴造りにかけて働く
- 大腿四頭筋:跪射(きしゃ)の際に特に使われる
5. 筋肉痛の部位から読み取れる射の課題
どこが筋肉痛になったかで、自分の射の問題点を把握できます。以下の対応表を参考にしてください。
手首・前腕が痛い場合
腕の力で弓を引いているサインです。肘、肩甲骨への意識が足りず、手首が代償動作として働いています。素引きで大三から会まで、肩甲骨を意識した引き分けを繰り返しましょう。
肩の前側が痛い場合
打起しで肩が上がり、大三への移行で肩が前に出ているサインです。肩を「落とす」意識と、肩甲骨を「下に引く」動作を確認します。
背中の中央が痛い場合(良い痛み)
菱形筋と僧帽筋中部が正しく使えてきた証拠です。この筋肉痛は積極的に歓迎してください。ただし翌日の稽古では無理をせず、肩甲骨の可動域を保つストレッチを行います。
腰が痛い場合
胴造りで反り腰になっているサインです。腹筋を使って体幹を安定させ、反り腰を矯正します。足踏みから胴造りにかけての姿勢を鏡で確認してください。
6. 正しい筋肉の使い方を身につけるための練習法
射は1回実践しただけでは変わりません。日ごろから正しい筋肉の使い方を意識する習慣が上達の基盤になります。
タオルを使った肩甲骨トレーニング
タオルを両手で肩幅より広く持ち、頭の上を通して後ろまで回します。この動作で肩甲骨を意識的に動かす感覚を養います。弓を持って行う前に肩甲骨の可動性を高めておくことで、引き分けの質が上がります。
素引きでの筋肉確認
矢を使わず素引きで引き分けを行い、会の位置で一時停止します。このとき背中のどの部分に力が入っているかを感じ取ります。手首だけに力が入っていれば形の見直しが必要です。肩甲骨の内側に張りを感じれば、正しい筋肉が使えています。
7. まとめ:筋肉痛は射の教師
弓道の筋肉痛は「間違いのサイン」である場合と「成長のサイン」である場合があります。どちらであるかは痛みの部位で判断できます。
- 手首・前腕の痛みは腕引きの修正サイン
- 背中中央の痛みは肩甲骨が正しく使えてきた成長サイン
- 肩前面の痛みは打起し・大三の形の見直しサイン
射は1回実践しただけでは変わりませんから、日ごろから背中や肩甲骨を意識して、美しい羽が広がるようにしてください。正しい筋肉の使い方が身につくことで、昇段試験でも役立ちますし、何より会の際の伸び合いの幅が広がり、弓が最大限に使われて威力も増します。
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