足踏みとは何か|射法八節の土台となる動作
弓道の射法八節は、足踏みから始まります。「足を開くだけの動作」と軽視されがちですが、足踏みの精度が射全体の安定性を決めます。胴造りも、引き分けも、会も、すべては足踏みという土台の上に成り立っています。
私は28年の稽古のなかで、足踏みの重要性を何度も痛感してきました。的中率が落ちたとき、射形が崩れたとき、まず足踏みに立ち返ることで改善できた経験が数多くあります。今回は、足踏みで押さえるべき3つの基本を、実際の稽古経験をもとに詳しく解説します。
足踏みの役割|なぜ「開き方」にこれほど厳密な決まりがあるのか
足踏みは、胴造り以降に続く骨格の基礎をつくる動作です。足を開く角度・幅・的への向き、これら3つが毎回同じでなければ、どれだけ上半身の動作を揃えても射形は安定しません。
弓道の教本では、射法八節を「竹のような一連のもの」と表現します。竹の節はそれぞれが独立していますが、互いに連結して全体の強さを生み出します。足踏みはその最初の節であり、最も重要な土台です。
足踏みが崩れると何が起きるか
足踏みの角度や幅が毎回違うと、以下の問題が連鎖して生じます。
- 胴造りの重心位置が左右にずれる
- 的への向きが毎回変わり、狙いが定まらない
- 引き分けの際に左右の肩の高さが揃わない
- 会での伸合いが均等にならず、離れが乱れる
足踏みを丁寧に行う習慣をつけるだけで、的中率が10〜15%改善する射手を私は何人も見てきました。
基本1|矢束の幅を正確に知る
足踏みの第一の基本は、自分の矢束(やづか)を正確に知ることです。矢束とは、自分の引き尺のことで、射手ごとに異なります。足踏みの幅は、この矢束を基準に決めます。
矢束の測り方
矢束の測り方は次のとおりです。
- 左腕を地面と水平に真横へ伸ばす
- 左手の指先から、首の中心(喉仏のやや上)までの距離が矢束
- 首を左に向けると首の筋が浮き上がり、中心点が分かりやすくなる
- 一人では正確に測りにくいため、仲間に測ってもらうと精度が上がる
矢束は弓の選択にも影響します。矢を選ぶ際は、安全のために矢束より5cm程度長めのものを選ぶのが基本です。短い矢を引くと、引き過ぎた際に矢が弓の外に出てしまう危険があります。
矢束の幅を体に染み込ませる練習
矢束の幅を身体に覚えさせるために、床に矢を置いて目印として練習すると効果的です。両足を置く位置に矢を2本並べ、その上に毎回足を置く練習を繰り返します。
この「矢束を基準にした足幅」を弓道では矢束の準(かね)と呼びます。足踏みで守るべき三つの基本のうちの一つです。
基本2|外八文字の踏み方を身体に覚えさせる
足踏みの第二の基本は、外八文字の角度です。外八文字とは、両足先が外側を向き、約60度の角度を形成する踏み方です。
外八文字の確認方法
外八文字の角度をイメージするには、次の方法が分かりやすいです。
- 両足のつま先を結んだ直線を底辺とする
- その底辺から自分の後ろ方向へ向かって正三角形を作るイメージを持つ
- この正三角形の頂点が、重心の落ちるべき中心点になる
昔は角度を表す言葉がなかったため、扇を用いて角度の目安とした記録があります。そこから外八文字の角度を扇の準(かね)と呼ぶようになりました。足踏みで守るべき三つの基本の二つ目です。
一足開きと二足開き|どちらを選ぶか
外八文字に足を開く方法には、一足開きと二足開きの2種類があります。特に決まりはなく、普段の練習ではどちらを行っても構いません。
一足開き(礼射系)の手順は以下のとおりです。
- 本座より的に向かって歩を進め、射位から的を見ながら左足を半歩踏み出す
- 右足を左足に一旦寄せてから、ゆるく弧を描くように一足で外八文字に開く
- 開く際、足元を見てはいけない
二足開き(武射系)の手順は以下のとおりです。
- 本座より的に向かって歩を進め、射位から的を見ながら左足を半歩踏み出す
- 一旦視線を足元に落とし、右足を反対方向に半歩踏み開く
私は二足開きで習いました。一度足元を確認できるため、矢束の幅と角度を目で確認できる安心感があります。また動作がシンプルで、実践的なイメージも持ちやすいです。
一足開きは優美さがある一方、矢束と角度を常に自然に身体が覚えていなければなりません。上達するまでは初心者には難易度が高い方法です。どちらの方法であっても、角度と幅の正確さが重要である点は変わりません。
基本3|的への正対|一間中墨の準
足踏みの第三の基本は、的に対して正しく相対することです。足を踏み開いた後、足先の2点を結んだ直線の延長線上に的の中心が来るよう位置を確認します。
この「的への正対」を弓道では一間中墨の準(かね)と呼びます。足踏みで守るべき三つの基本の三つ目です。
なぜ正対の確認が必要か
射位に立つと、自分が的に対して正しい位置にいるかどうかは案外わかりません。特に道場に慣れていない場合や、久しぶりに引く場合は、微妙なずれが生じやすいです。
的に対して斜めに立っていると、引き分けの際に左右の肩の角度が的への方向と一致せず、どれだけ正確に射法八節を行っても矢は的からずれていきます。
正対を確認する具体的な方法
- 足踏みをした後、両足のつま先を見て、その延長線上を目で追う
- その線が的の中心を向いているかを確認する
- 仲間に側面から見てもらい、正対しているかをチェックしてもらう
- 道場の床の線や目印を活用して、位置の基準を作る
初心者のうちから、仲間に立ち位置を確認してもらう習慣をつけることをおすすめします。自分の目だけでは、正対しているかどうかを正確に判断することが難しいです。
3つの準(かね)を統合して身につける
足踏みの3つの基本、すなわち矢束の準・扇の準・一間中墨の準は、それぞれが独立した基本ではなく、統合して初めて正しい足踏みになります。
毎回の稽古で確認する習慣
3つの準を統合するために、毎回の稽古で以下の確認を習慣にしてください。
- 足踏みをした後、すぐに胴造りに入らず1〜2秒立ち止まって足元を確認する
- 矢束の幅になっているか・外八文字の角度が出ているか・的の中心への正対ができているかを確認する
- 一つでも不安があれば、踏み直してから次の動作に入る
「踏み直すのは恥ずかしい」と思う必要はありません。不完全な足踏みのまま進むほうが、射全体への影響が大きく問題です。審査でも、足踏みのやり直しは減点対象にはなりません。
審査での足踏みの注意点
審査においては、足踏みの後の体配の所作が審査員の目に入ります。足踏みをした後に下を向いて確認する動作は、体配上の印象を損ねる場合があります。
審査に臨む前に、目で見なくても正確な足踏みができるよう、十分な練習を積んでおくことが重要です。普段の稽古でこそ、目を見ないでの足踏み確認の練習をしておきましょう。
足踏みの上達が射全体を変える
足踏みは射の最初の1〜2秒で完了する動作です。しかし、その1〜2秒の質が、その後の数十秒にわたる射全体の質を決定します。
的中率が安定しない、射形が毎回違う、審査でなぜか力が発揮できない。これらの悩みを持つ方は、まず足踏みを見直してみてください。
- 矢束の準:自分の矢束を正確に測り、その幅で足を踏み開く
- 扇の準:外八文字・約60度の角度を毎回再現する
- 一間中墨の準:足先の延長線上に的の中心を置く
この3つを毎回丁寧に行うことが、弓道上達の最も確実な道の一つです。28年の稽古を経た今でも、私は射ごとに足踏みから意識を向けることを欠かしません。

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