足踏みは射法八節のはじまりの動作であり、正しさが強く求められるものです。しかし「両足を矢束幅に開けばよい」と思ってしまうこともあるのではないでしょうか。私も弓道を始めたばかりのころはそう思っていました。28年の稽古を経て今はっきり言えるのは、足踏みは射の基礎であり、ここが崩れれば上に来るすべての動作が狂うということです。
本記事では足踏みがなぜ独立した動作として重要なのか、正しい幅と角度の作り方、そして崩れた足踏みがもたらす弊害について解説します。
1. なぜ「足踏み」がわざわざ独立した動作として扱われるのか
なぜわざわざ「足踏み」が射法八節内で独立した動作になっているのでしょうか。それは足踏みがただ単に両足を開く動作でなく、矢を射るすべての動作にかかわるほど重要性が高いものであり、弓道上達には欠かせないものだからです。
想像してください。ぬかるんだ土地に家の土台(=基礎)を作り、その上に家を建てたとしてその家は丈夫でしょうか。実は、弓道における足踏みもこれと同じことが言えます。歪んだ足踏みでは、正しい射型はできず上達も見込めません。だからこそ、足踏みが重要視され一つの独立された動作としてある のです。
さらに、踏み開いた両つま先が的の中心から伸びた仮想的な延長線上にあればそれだけで的中率があがります。なぜなら、正しい足踏みができればその上に来る重心・腰・肩の位置も正しくなり、必然的に矢が的へと向かうように引き分けられるからです。
全体へ影響を与える足踏みの良し悪しですが、動作の手軽さから、度外視されてしまいがちです。今一度足踏みの重要性を見つめ直してみることが、弓道上達へのさらなる一歩です。
2. 歪んだ足踏みがもたらす弊害
正しい足踏みの重要性・必要性と同時に、歪んだ足踏みのもたらす弓道の弊害についても触れておきます。
矢所の乱れと滑走
左右どちらかに重心がある場合、左右の均一な伸びができないでしょう。均一な伸びができないのに無理矢理離れを行ってしまうと、最後に左手を故意に上げる・振る、右手の切りが上下するといったことが起こります。そうなれば矢の貫徹力、速度は落ちてしまいますし、矢所は定まらず、滑走、最悪は怪我の可能性も出てきます。
射癖への定着
次に射型についても弊害があります。足踏みでバランスが崩れているのを他の動作で補おうとするために、どこかで無理が発生します。先に述べた左手の振り、右手の切りの上下が射型の悪い癖(=射癖(しゃへき))として習慣づいてしまい、大変な苦労をするかもしれません。多くの人は、一旦習慣づいた癖は直すのに苦労します。だからこそ、最初からそういった射癖をつけないことが肝心です。
足踏みを正さず、この離れを続ければ悪い癖(=射癖(しゃへき))として習慣づいてしまい、大変な苦労をするかもしれません。
的中率の低下
毎度左手と右手が同じタイミング、同じバランスで離れを行えるわけではありません。人は機械ではないからです。繰り返すうちにどこかでズレが発生し、スランプへと陥ってしまうかもしれません。なんだかよくわからないけどタイミングは同じはずなのに中たらない。そういったことを防ぐ意味でも、基礎からの崩れはないか見直し、小手先の修正ではなくもっとおおもとの修正を行わないと、元通り、あるいはそれ以上の的中率は望めません。
3. 正しい足踏みの幅と角度
正しい足踏みの練習方法としては次の5つのチェック項目を意識することで身につきます。
チェック項目1:踏み開いた両足の角度は60度
足踏みの両足の角度は60度が基準です。これは全日本弓道連盟の教本でも定められている数値です。60度という角度は体の安定と的への向きのバランスが取れた角度として長年の経験から導き出されたものです。
60度の確認方法:床にテープで角度の目安を作り、足の位置を確認する。または道場の板目を参考にする。
チェック項目2:つま先の位置がずれていないか
つま先が的の中心から伸びた仮想延長線上にあることが重要です。左右のつま先の位置がずれていると、胴造りの段階で体の向きが的に対して斜めになります。
チェック項目3:つま先、かかと、どちらか一方に重心がかかっていないか
体重は足の裏全体で均等に支えます。つま先体重(前傾)またはかかと体重(後傾)になると、上体の安定が保てません。足の裏の土踏まずを意識し、前後均等に体重がかかるようにします。
チェック項目4:膝の裏に無駄な力が入っていないか
膝を必要以上に強く伸ばすと、膝の裏側の筋肉が緊張し、体全体に無用な力みが伝わります。膝は「伸ばし切らない、しかし曲げない」自然な状態が理想です。
チェック項目5:体がかがんだり、反ったりしていないか
足踏みが完了したときに上体が前傾・後傾していないか確認します。足踏みと胴造りは連動しているため、足踏みの段階で上体が崩れると胴造りで取り返しがつかなくなります。
4. 足踏みの幅の選択 ― 矢束幅と体格の関係
足踏みの幅は原則として矢束(やづか)の幅とされています。矢束とは自分の矢の長さのことで、引き幅に対応しています。しかし実際の稽古では体格によって若干の調整が必要な場合があります。
幅が狭すぎる場合の問題
足踏みの幅が矢束より狭いと、足のバランスが崩れやすく、引き分けで体が揺れます。また腰の回旋が十分にできず、会での伸び合いが制限されます。
幅が広すぎる場合の問題
逆に幅が広すぎると、体重の移動が起きやすく、引き分けで体がブレます。また肩の高さが変わり、打起しの安定が損なわれます。
体格に合わせた微調整の方法
基本は矢束幅で、感覚的に「踏んでいる」という安定感があることを確認します。稽古で同じ位置に毎回足が来るよう、道場の床の目印を活用することも有効です。
5. 足踏みを正しく身につけるための練習法
足踏みは意識次第で短期間で改善できます。以下の練習を稽古のたびに取り入れてください。
鏡を使った角度確認
道場に鏡がある場合、真正面から自分の足踏みを確認します。両足の角度が均等か、体の正面が的に正しく向いているかを視覚で確認できます。
ビデオ撮影による客観評価
自分では感じにくい体の傾きやつま先のずれも、映像を見れば一目瞭然です。足踏みから胴造りへの流れを録画し、角度と幅を客観的に評価します。
足踏みだけの反復練習
射の流れの中で行うのではなく、足踏みだけを50回、100回と反復します。正しい感覚が体に定着するまで繰り返すことで、稽古の場での足踏みが自然に正確になります。
6. まとめ:足踏みは射の土台、軽視すれば上達は止まる
ちょっとしたことですが、常に意識していくことで正しい足踏みができ、弓道が上達します。
- 足踏みは射法八節全体の基礎であり、独立した重要動作
- 両足の角度は60度、つま先は的の延長線上
- 体重は前後左右均等に分散する
- 崩れた足踏みは矢所の乱れ・射癖・的中率低下をもたらす
- 5つのチェック項目を毎回確認する習慣をつける
足踏みをおろそかにして小手先の技術に走ってしまうことは、弓道では「してはならない」ことです。土台が正しければ、その上に来る重心・腰・肩の位置も正しくなります。基礎を丁寧に積み重ねることが、弓道上達への最も確実な道です。

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