巻藁練習とは何か|弓道上達の土台を作る稽古
弓道の稽古には段階があります。ゴム弓での素引き、徒手での動作確認、そしてゴム弓に続く次の段階が巻藁練習です。初めて実際の弓に矢を番えて射る、弓道における最初の「本物の射」がここから始まります。
私は28年の稽古経験のなかで、巻藁練習を軽視していた時期と、巻藁練習を稽古の中心に置いていた時期の両方を経験しました。その経験から断言できます。巻藁練習を丁寧に続けた時期のほうが、射の質は圧倒的に高くなります。
巻藁の基本知識|道具と環境を正しく理解する
巻藁は弓道における型の稽古用の的です。藁を長手方向に矢が突き抜けず、かつ矢を傷めない程度の強さで束ねてあります。規格の目安は以下のとおりです。
- 直径:30〜50cm
- 奥行き:80cm程度
- 高さ:巻藁の中心が肩先程度の高さになるよう専用台に据える
- 距離:射手から2m程度
安全面から、巻藁はある程度大きいものが推奨されます。また、巻藁の後ろには矢が外れた場合に備えて畳を置くことが一般的です。実際に矢を射る練習ですので、前後左右の安全確認を必ず行います。矢を抜く際にも周囲への注意を怠らないでください。
竹弓の場合は弓を慣らす意味もある
竹弓を使用している場合、巻藁練習には弓自体を慣らすという意味もあります。竹弓は温度や湿度の変化に敏感で、稽古前に何射か巻藁で慣らすことで弓の状態が安定します。的前に入る前の準備として、経験者も積極的に活用している理由の一つです。
巻藁練習で上達する5つのポイント
ポイント1|的中を完全に忘れて動作だけに集中する
巻藁練習の最大の利点は、的中を気にしなくてよいことです。的前では「中てなければ」という意識が常に働き、射法八節の各動作への集中が分散されます。巻藁では、この制約が完全になくなります。
具体的には、以下の点に意識を向けます。
- 足踏みの幅と角度が毎回一定になっているか
- 胴造りで腰の回転が正しく行われているか
- 弓構えで手の内が毎回同じ形になっているか
- 打起しから引き分けにかけて、肩が上がっていないか
- 会での伸合いと詰合いが完成しているか
- 離れが自然に生まれているか、作為的になっていないか
これら射法八節のすべてを、一射ごとに意識的に確認することが巻藁練習の真髄です。
ポイント2|射形の修正点を毎回1点に絞る
巻藁練習では、意識する修正点を1回の稽古で1〜2点に絞ることが効果的です。「手の内を直しながら、会も直して、さらに離れも直す」という欲張った取り組みは、どれも中途半端になります。
私が推奨する進め方は次のとおりです。
- 前回の稽古で気になった1点を本日の修正テーマとして決める
- その1点だけを意識した射を20〜30射行う
- 改善が感じられたら次の修正点に移る
- 修正した動作が崩れていないかを定期的に確認する
この方法で丁寧に稽古を重ねると、3ヶ月で射全体の質が大きく変わります。私自身、錬士審査の準備期間にこの方法を徹底したことで、審査委員から「射が整ってきた」と評価いただきました。
ポイント3|早気・もたれの修正には巻藁が最適
早気(会が極端に短い射癖)やもたれ(会が長すぎて離れられない射癖)の修正に、巻藁練習は特に有効です。的前での早気修正は、的という視覚的プレッシャーがあるため困難です。
巻藁での早気修正の具体的な方法を紹介します。
- 会に入ったら「伸合い、伸合い」と心の中で唱えながら左右へ伸び続ける
- 仲間に横に立ってもらい「もう少し」と声をかけてもらう
- 市販のビニール製の的やシールを巻藁に貼って狙いの練習も加える
- 1射ごとに射法八節の各動作が正しく行えたかを振り返る
ポイント4|矢の高さを毎回確認する
巻藁練習では、矢の高さの管理が特に重要です。「的がないから高さはどこでも良い」という認識は誤りです。巻藁での射形が固まると、その高さのまま的前でも射るようになります。
適切な矢の高さは、自分の肩先程度です。高すぎると引き分けから会、離れにかけてすべての動作が上方向への癖を持ってしまいます。低すぎても同様です。初心者のうちに間違った高さで繰り返してしまうと、修正に大変な時間がかかります。
ポイント5|執弓の姿勢から揖まで体配も省略しない
巻藁練習の手順は、執弓の姿勢で揖をすることから始まります。「巻藁だから体配は不要」という姿勢では、体配の練習機会を自ら失っています。
射法八節と体配は一体です。巻藁での稽古でも、体配の所作を毎回丁寧に行うことで、試合や審査での自然な動作が身につきます。特に審査を目指している方は、巻藁での体配稽古を絶対に省略しないでください。
初心者と上級者で変わる巻藁の使い方
初心者の巻藁練習
初心者は、まず射法八節の動作を身体に覚え込ませることを最優先します。正しいフォームが身につくまでは、矢数よりも一射ごとの丁寧さを優先してください。
- 1回の稽古で20〜30射を目安に
- 射ごとに射法八節の動作確認を必ず行う
- 師範や先輩に随時チェックしてもらう機会を作る
上級者の巻藁練習
上級者にとって巻藁練習は、射法の確認と射癖の修正に使います。的前での的中率が落ちてきたとき、まず巻藁に戻って基本を確認することが、最も効率的な修正方法です。
- 的前の練習前に必ず5〜10射の巻藁練習を行う
- 射癖が出始めたら的前を離れ、巻藁での修正に専念する時期を設ける
- 師範の指導を受けた直後に巻藁で動作を確認し、身体に刷り込む
巻藁練習でよくある失敗と対策
失敗1|ただ矢数だけを増やす
「矢数を増やせば上達する」という考えは、巻藁練習においては特に危険です。誤った動作を繰り返す量を増やすことは、誤った射形をより深く固めることと同義です。
巻藁でも一射一射を大切に、気持ちを込めて行います。「今の射は何が良くて何が悪かったか」を毎回振り返ることが、少ない射数でも大きな効果をもたらします。
失敗2|狙いを完全に無視する
巻藁では狙いをつけることは必ずしも必要とはされていませんが、高さへの意識は常に持ちます。市販のシールや的紙を貼って、狙いの感覚も養うことをおすすめします。的をイメージした射は、的前への移行をスムーズにします。
失敗3|射形確認の機会を持たない
巻藁練習は自己確認の場ですが、自分の目だけでは見えない部分があります。定期的に動画撮影をするか、仲間や師範に見ていただく機会を作ることが重要です。特に背中や肩甲骨の動きは、自分では確認できません。
まとめ|巻藁練習を稽古の核に置く
巻藁練習は入門者のためだけの練習法ではありません。初心者の基礎習得から、上級者の射癖修正、審査前の最終確認まで、すべての段階で有効な稽古方法です。
- 的中を忘れ、動作の質だけに集中する
- 修正点を1点に絞って丁寧に取り組む
- 矢の高さと体配の所作を省略しない
- ただ矢数を増やすのではなく、一射一射を大切に射る
- 定期的に動画や他者の目で自分の射形を確認する
弓道の上達に近道はありません。しかし、巻藁練習を稽古の核に置くことで、確実に正しい方向へ進むことができます。焦らず、丁寧に、コツコツと続けていきましょう。

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