弓道の稽古を重ねるほど、「会でもっと伸び合えれば」「早気をどうにかしたい」という悩みが深くなります。私も五段錬士として長年この課題と向き合ってきました。そこで気づいたのが、呼吸と動作の一致こそが会の充実を決めるという事実です。
本記事では弓道の会で使える呼吸法3選を、早気防止の観点も含めて具体的に解説します。28年の稽古と指導経験から、実際に効果があったメソッドのみを紹介します。
1. なぜ会で呼吸が重要なのか
冒頭で弓道の動作は基本的にゆっくりで、呼吸に合わせて動くことが大切だと述べました。この呼吸法が身についているかいないかで上達率も変わるわけですが、では なぜ射法八節中特に会での呼吸が大切なのか。それは会が「静かに伸長し続ける動作」だからです。
もう少し言い方を変えれば、会では離れに備えて左右に伸びる力をずっと加え続けているためです。よく運動を行う前にストレッチを行いますが、ストレッチの時に息を止めてしまっては筋肉や筋がほぐれません。息を吸って、吐く動作で体の筋を伸ばし筋肉をほぐすことができるのです。これは会にも当てはまることで、呼吸に合わせることで伸長し続けることができるのです。
呼吸を止めると何が起きるか
これを実際に体感するには、素引きで引き分けたあと呼吸を一時止めてみてください。そしてその呼吸を止めた状態で、左右に伸びてみてください。思うように力が抜けず、左右に伸びられないことに気づくでしょう。
このことが、会での呼吸が大切な理由です。呼吸に合わせることで伸長し続けることができます。
2. 呼吸法を身につける3つのポイント
会での呼吸法というと、会のみのことのように思えてしまいますが、実は呼吸法というのは射法八節のすべての動作につながるものですので、ピンポイントでの会得は難しいのです。なのでまずは1つ目のポイントとして、射形全体を通しての呼吸法を身につけます。
呼吸法ポイント1:射形全体を通した呼吸を身につける
吸うときに動作を行い、吐くときに一旦力を抜きます。これは各動作のごとに使う呼吸法ですので、しっかり身につけましょう。
足踏みの場合には、左足を踏み出すときに息を吸い、吐くときに右足を踏み固める、といった具合です。
次に全体を通しての呼吸法が身についたら、2つ目のポイントとして、引き分けから会にかけての呼吸を身につけます。
呼吸法ポイント2:引き分けから会にかけての呼吸
引き分けに入るときに勢いよく息を吸うやり方ではなく、引き分けに入るときにはいつも通りに息を吸うようにします。一呼吸で引き分けたのち、一度息を吐き出します。そして息を吸いながら会に入ります。会では息を吸う、吐く、吸う、吐くを繰り返しながら伸長をしていきます。
このときに何回呼吸をすればいいといった回数指定はありませんが、人間の体はすぐに伸長できませんので、目安として最低吸う、吐くのセットを2〜3回はすると思いましょう。これは人によって呼吸の長さやスパンが変わるため、一概には言えません。あくまで目安だということに気をつけてください。
- 引き分けへの入り方:いつも通りに息を吸う(勢いよく吸わない)
- 引き分け後:一度息を吐き出す
- 会への入り方:息を吸いながら会に入る
- 会の中:吸う・吐くを繰り返しながら伸長を続ける
- 目安:最低でも吸う・吐くのセットを2〜3回行う
呼吸法ポイント3:呼吸をしっかり行う
最後に3つ目のポイントとしては、呼吸をしっかり行うことです。人間の体は緊張状態などになると、すぐに動けるように呼吸を浅く短いスパンで行うようになります。しかし、この浅く短いスパンの呼吸が弓道ではあだとなります。なるべく深く長いスパンの呼吸にすることで、伸長もぐっと楽になります。
3. 早気防止と呼吸法の関係
早気(はやけ)は、会に入ってからすぐに離れてしまう習癖です。弓道の最も深刻な技術的問題の一つとして知られており、一度習慣化すると修正に長い時間がかかります。この早気と呼吸法は深い関係があります。
早気が起きるメカニズム
早気の根本にあるのは「会を維持できない」状態です。これには身体的な原因と心理的な原因の両方があります。身体的には、会での伸び合いに必要な筋力が不足していること、または筋肉が早い段階で力を使い果たしてしまうことが挙げられます。心理的には、的への集中が切れて「早く離したい」という衝動が生まれることです。
呼吸が浅く短いスパンになると、会での集中力が維持できず、心理的な早気を引き起こしやすくなります。また、呼吸が止まった状態では伸び合いが続かず、身体的な限界が早く訪れます。
呼吸で会の時間を延ばす
会での呼吸を意識的に「深く、長く」することで、集中の維持と筋肉の伸長が同時に実現します。「息を吸いながら伸び、吐きながら解放の準備をする」という一連のリズムを体に刻むことが、早気を防ぐ最も自然な方法です。
- 会に入ったら呼吸のリズムを作ることを最優先にする
- 「早く離したい」衝動が生まれたら呼吸に意識を戻す
- 深い呼吸が自然にできるようになるまで、素引きで練習する
4. 呼吸と気持ちの整え方 ― 胴造りからの準備
呼吸は会だけで突然整えようとしても難しいものです。射法八節の流れ全体の中で呼吸を整えていく意識が必要です。特に胴造りから弓構えにかけての段階で、深呼吸を一度行うことで会への準備が整います。
胴造り前の一呼吸
矢をつがえ、弓を持ち、足踏みを整えた後、胴造りに入る前に一度深く息を吸って吐きます。この一呼吸が、肩の力を抜き、腹に重心を落とし、全身のリラックスをもたらします。私は長年の稽古でこの「胴造り前の一呼吸」を欠かしたことがありません。
打起しの呼吸
打起しは弓を上方に持ち上げる動作です。この時、息を吸いながら弓を上げることで、肩が自然に安定し、次の大三への移行が滑らかになります。打起しで肩が上がりすぎる場合は、息を吸いきってから一息ついて肩を落とす意識を加えます。
5. 腹式呼吸を弓道に活かす
弓道の呼吸として最も適しているのは腹式呼吸です。胸式呼吸(胸を膨らませる呼吸)は肩の動きを生み、射の安定を乱します。一方、腹式呼吸は肩を動かさずに深い呼吸を可能にします。
腹式呼吸の確認方法
- 片手をお腹に、もう一方を胸に当てる
- 息を吸ったときにお腹が膨らみ、胸はほとんど動かないことを確認する
- 息を吐いたときにお腹がへこむことを確認する
この腹式呼吸が自然にできるようになるまで、稽古前に5分程度の呼吸練習を行うことをお勧めします。
6. まとめ:呼吸は会の見えない動作
動作に慣れるほどおろそかになる呼吸法ですが、今一度見直すことでより弓道を上達させていきましょう。
- 会での呼吸は「静かに伸長し続ける」ための基盤
- 射形全体で呼吸と動作を一致させる習慣をつける
- 会では「吸う・吐く」を2〜3セット以上繰り返す
- 深く長い呼吸が早気防止にも直結する
呼吸は会の「見えない動作」です。この見えない部分を磨くことが、射の充実と早気克服への最短ルートです。

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